「住まいのエンディングノート」の中身を徹底解説
では実際に、このノートには何が書けるのでしょうか。全体は大きく2部構成になっています。
第1部「わたし自身のこと」「わたしの住まい・財産について」
生年月日や本籍、もしもの時の連絡先といった基本情報に加え、不動産の所在地・持分・共有者情報、住宅ローンの残債、賃貸借契約の内容、隣地境界や道路の権利関係といった「特記事項」まで記録できます。デジタルデータの保管場所やID・パスワード、遺言書の保管場所を書いておく欄もあり、いざという時に家族が慌てて探し回る事態を防げます。
第2部「住まいの将来を考える際に知っておきたいこと」――5つの選択肢と空き家のリスク
住まいの「活かし方」「しまい方」5つの選択肢
「土地・建物を売る」「解体して土地を売る」「建物だけ貸す」「解体して土地を貸す」「所有し続ける」——住まいが必要でなくなった際の選択肢を5パターンに整理し、親自身の意向を書いておける項目があります。
放置空き家の問題にも触れており、2023年12月13日に施行された改正空家法により、放置すれば「特定空家等」になるおそれのある空き家が「管理不全空家等」として市区町村から指導・勧告の対象になる仕組みも紹介されています。
改正空き家法とは?
2023年12月13日に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部改正)は、空き家問題への対応を強化する目的で改正されました。
従来は放置が深刻化した「特定空家等」だけが行政の指導・勧告の対象でしたが、改正後はその手前の段階でも「管理不全空家等」として指導・勧告を受けるようになりました。
加えて、空き家の活用を促進する区域を市区町村が指定できる仕組みや、所有者が分からない空き家について財産管理人の選任を市区町村が請求しやすくする制度も盛り込まれています。
「もしも」の後への備えと生前の備え
自筆証書・公正証書・法務局預託という3種類の遺言書の作成方法や、法定相続の仕組み、2024年4月1日から義務化された相続登記についても解説されています。
加えて、判断能力が衰えたときに備える法定後見・任意後見制度、民事信託、死後事務委任契約といった「生前の備え」も紹介されており、住まいだけでなく、財産管理全体を見渡せる内容になっています。
相続登記の義務化について
相続登記(相続による所有権移転登記)は、2024年4月1日から義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をすることが義務となり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
施行日より前に発生していた相続も対象となりますが、経過措置として一定の猶予期間が設けられています。手続きの負担を軽くするため、必要書類を簡略化できる「相続人申告登記」という制度もあわせて新設されました。
お盆の帰省をきっかけに――入手方法と使い方
「住まいのエンディングノート」は、国土交通省のウェブサイトでPDF形式で公開されており、誰でも無料で閲覧・ダウンロードできます。
いきなり「全部書いて」と渡すのではなく、まずは第1部の基本情報など答えやすい項目から一緒に埋めていくのがおすすめです。
すべての項目を1日で埋めきる必要はありません。
「このノート、一緒に埋めてみようか」という軽い声かけから始め、埋まらなかった項目は年末年始やお彼岸など、次に会うタイミングに持ち越してもよいでしょう。
大切なのは、一度に終わらせることよりも、家族で話し合う機会を定期的につくることです。
【筆者コメント:制度・法律面の備え編】
ここでは、感情面のケアと合わせて知っておきたい「制度・法律面」の備えをお伝えします。
このノートにも書かれている通り、2023年12月13日に施行された改正空家法により、放置すれば特定空家等になるおそれのある空き家は「管理不全空家等」として市区町村から指導・勧告を受けるようになりました。
従来の「特定空家等」よりも早い段階で、固定資産税の住宅用地特例が解除される可能性があるということです。
「まだ特定空家じゃないから大丈夫」と先送りできる時間は、以前より短くなっていると考えたほうがよさそうです。
ノートに意向を書いて終わりにするのではなく、「実際に売る・貸すといった行動をいつまでに起こすか」というスケジュール感まで、あわせて話し合っておくことをおすすめします。
まとめにかえて|今年の帰省は「最近どう?」という労わりの言葉から
「実家じまい」は、突き詰めれば「大切な家族のこれから」を一緒に考える、あたたかい作業です。
いきなり書類や制度の話から入るのではなく、「高いところの掃除や重いゴミ出しで困ってない?」「この家、これからどうしていきたい?」——そんな、親の気持ちに寄り添う言葉から始めてみませんか。
「子どもに負担をかけたくない」という親の優しさと、「将来の負担を減らしたい」という自分の現実的な判断は、決して対立しません。国土交通省の「住まいのエンディングノート」を入り口に、まずは一緒に項目を埋めてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
校閲者出身の編集記者。人文社会系の一般書籍の校閲・社会科教材の制作を15年間経験。実体験から相続や介護について当事者目線で紐解くことを信条としている。証券外務員二種(二種外務員資格)・相続診断士・ガーデンコーディネーター資格を保有、早稲田大学卒。
