【宅建士監修】賃貸の退去費用の相場は?原状回復で借主が負担する範囲と立ち会いのチェック点
umaruchan4678/shutterstock.com
住まい

【宅建士監修】賃貸の退去費用の相場は?原状回復で借主が負担する範囲と立ち会いのチェック点

統一の相場がない理由と、国交省の算定例で見る負担額の考え方|敷金なし・長期入居の注意点も

【宅建士監修】賃貸の退去費用の相場は?原状回復で借主が負担する範囲と立ち会いのチェック点
umaruchan4678/shutterstock.com

この記事はここがポイント

  • 2020年4月施行の改正民法に基づき、退去時の原状回復義務から通常損耗や経年変化が除外される点。
  • 国土交通省のガイドライン上、クロスなどは6年で残存価値が1円となるなど入居年数が長いほど借主の負担割合が低下。
  • 請求に納得できない場合は安易に署名せず、消費者ホットライン「188」など公的窓口への相談による解決。

賃貸住宅の退去が決まると、「退去費用はいくらかかるのだろう」「敷金で足りるのか」と不安になる方は少なくありません。請求書の金額が妥当か、判断しにくいこともあるでしょう。

退去費用は、物件や入居年数、契約内容によって大きく変わります。そのため、「1Kならいくら」と一律に言える金額は、確認できた公的資料には示されていません。一方で、借主が負担する範囲や金額の考え方には、国土交通省が示す一般的な基準があります。

そこで今回は、原状回復の基本、国土交通省の算定例にみる負担額、立ち会いのチェック点、納得できないときの相談先を整理します。

退去費用については、「見積書の金額が高い気がするけれど、何を根拠に確認すればよいか分からない」という声がかなり多いです。もし納得できないことがあるなら、同意を急かされた場合でもそのまま承認するのは避けてください。

退去で大切なのは、請求額の総額だけを見て判断しないことです。退去費用は物件ごとにかなり違うので、クロス、床、クリーニング、鍵交換など、どの項目が何を理由に請求されているのかを分けて確認しましょう。

退去費用に全国共通の相場はない?原状回復の基本【2026年10月時点】

まず、「原状回復」は「入居した当時の状態に戻すこと」ではありません。

国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)』(平成23年8月)によると、原状回復とは、借主の居住・使用で生じた建物価値の減少のうち、借主の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超える使用による損耗・毀損を復旧することです。経年変化や通常損耗は含まれません。

この考え方は、2020年4月1日施行の改正民法で明文化されています。国土交通省の資料によると、民法621条は、借主の原状回復義務から「通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化」を除くと定めています。

なお、同ガイドラインは使用を強制するものではなく、最終的には契約内容などで個別に判断されます。

敷金は退去時に精算される

法務省のパンフレットによると、改正後の民法622条の2で、敷金は、賃料債務などを担保する目的で借主が貸主に交付する金銭と定義されました。賃貸借が終了して物件が返還された時点で返還義務が生じ、その額は、受け取った敷金から借主の債務額を差し引いた残額とされています。

借主負担になりやすい例と貸主負担の例

国土交通省のガイドラインは、損耗を通常の住まい方でも発生するものと、使い方次第で発生するものなどに区分し、部位別の例を示しています。

借主負担になりやすい例と貸主負担になりやすい例

借主負担になりやすい例と貸主負担になりやすい例

同ガイドラインによると、カーペットに飲み物をこぼすこと自体は通常の生活の範囲と考えられるものの、その後の手入れ不足などで生じたシミ・カビの除去は、借主の負担とするのが妥当とされています。

退去費用の相場はないため、部屋の広さだけで一律に判断するのは危険です。入居期間、喫煙の有無、ペット飼育、掃除状況、契約書の特約によって、同じ部屋の広さでも請求額は大きく変わります。

借主負担か貸主負担かで迷うときは、「普通に生活していて避けられたかどうか」を目安にすると分かりやすいです。

たとえば、日焼けによるクロスの変色や家具の設置跡は、通常の生活で起こり得るため貸主負担と考えられやすい一方、飲み物をこぼして放置したシミや、掃除不足によるカビは借主負担になりやすいです。

国交省の算定例でみる借主負担額の考え方

経過年数が長いほど負担割合は下がる

国土交通省のガイドラインによると、借主の負担は経過年数を考慮して決まります。クロスやカーペットは、6年で残存価値が1円となるような直線を想定して負担割合を計算します。

ただし、襖紙・障子紙・畳表などの消耗品や、フローリングの部分補修は、借主が傷めた場合、経過年数を考慮せずに補修費用が借主負担とされます。負担範囲は補修可能な最低限度の施工単位が基本で、クロスは毀損箇所を含む一面分までは借主負担としてもやむを得ないとされます。

算定例:借主の負担は修繕費の一部にとどまる

国土交通省の参考資料(令和5年3月)には、マンション(築16年・RC造・2LDK)に4年入居、敷金12万円とした算定例があります。

工事単価は事例検討のために設定された金額で、精算のイメージをつかむための例です。

マンション(築16年・RC造・2LDK)に4年入居、敷金12万円とした算定例

マンション(築16年・RC造・2LDK)に4年入居、敷金12万円とした算定例

この例では、修繕費26万6,000円のうち借主の負担は9万2,170円です。総額だけでなく、経過年数や負担範囲の考慮の有無も見る必要があります。

なお、間取り別の統一的な金額は、確認できた公的資料には示されていません。

敷金なし・入居10年など長期入居の場合の考え方

敷金がない物件でも、借主が負担する範囲の考え方は同じで、通常損耗や経年変化は含まれません。敷金がない場合は、敷金から差し引く精算ができないため、費用は別途請求される点が異なります。国民生活センターの相談事例には、敷金・礼金なしの物件で、故意過失を問わずクロスや床の張替え費用を請求するという特約に契約書へのサイン前に気づき、申込みの取消しと支払済みの初期費用の返金を求めた例があります。

国土交通省のガイドラインは、経過年数の代わりに入居年数を用いる方式を採用しています。そのため入居期間が長いほど借主の負担割合は下がります。クロスやカーペットは、入居時に新品だった場合でも6年で残存価値が1円となり、入居時点ですでに古ければ、より早く1円に達します(起点は入居時の状態に応じて当事者間で協議して決めるのが適当とされています)。ただし、経過年数を超えた設備でも、借主には善良な管理者として使用する義務があり、落書きを消す費用のように負担が生じることもあります。

敷金なし物件は初期費用を抑えられるため非常に人気ですが、退去時に費用を別途請求されるため、負担感が大きくなりやすいです。退去費用の支払いが大きければ次の転居にも影響するため、敷金なしの物件を選ぶ際は注意してください。

また、長く住むほど掃除やメンテナンスをサボりがちな方は多いです。しかし、年数にかかわらず借主の不注意で傷や汚れを広げた場合には、清掃費や補修費の一部を負担しなければいけません。

長期入居なのに退去費用が高い、という場合は項目ごとに経過年数がどのくらい反映されているか確認しましょう。

特約(ハウスクリーニング特約など)を確認する3つの視点

国土交通省の参考資料によると、管理会社へのアンケート(令和4年)では、実務で締結されることが多い特約としてハウスクリーニング特約やエアコンクリーニング特約が挙げられています。

借主に特別の負担を課す特約は、国土交通省のガイドラインによると、次の3要件を満たさなければ効力を争われるおそれがあります。

  1. 特約の必要性があり、暴利的でないなど客観的・合理的な理由があること
  2. 借主が、通常の原状回復義務を超える義務を負うことを認識していること
  3. 借主が、特約による義務負担の意思表示をしていること

特約の効力は個別に判断が分かれるため、決めつけず根拠を確認しましょう。

立ち会い当日に確認する5つのチェック点

国土交通省の参考資料によると、管理会社へのアンケート(令和4年)では、借主の立ち会いのもとで点検し、修繕が必要な部位をその場で伝えたうえで後日精算書を送る、という回答が約6割を占めています。

  1. 入居時の写真や物件状況の確認リストを手元に用意する
  2. 指摘された傷が入居前からのものでないか照合する
  3. 指摘箇所を、写真と書面の両方で記録する
  4. 借主負担とされた箇所の理由を尋ねる
  5. 署名を求められたら、内容と不明点を確認してから対応する

署名した書面の効力は記載内容や状況で異なる場合があります。不安なときは、持ち帰って検討できるか尋ねるとよいでしょう。

見積書・請求書で確認する点

国土交通省の資料によると、不明な点は、内訳や設備の交換時期の根拠を管理会社などに確認することが大切です。単価・数量・施工範囲、経過年数の考慮、特約の根拠条項を見ていきましょう。

納得いかないときの対応4ステップ

国民生活センターは、納得できない点は貸主側に説明を求めるよう呼びかけています。

  1. 内訳の説明を求める:根拠(写真など)を示しながら話し合います。国土交通省の資料によると、話し合いによる解決が基本です。
  2. 契約書の特約を確認する:原状回復条件や特約を見直します。
  3. 公的な窓口に相談する:『消費者ホットライン』の「188(いやや!)」で、最寄りの消費生活センターなどを案内してもらえます。東京都住宅政策本部は、賃貸住宅に関する電話相談(賃貸ホットライン)などを受け付けています。お住まいの自治体の窓口もご確認ください。
  4. 裁判所の手続きを検討する:国土交通省の資料によると、少額訴訟は60万円以下の金銭の支払いを求める訴えが対象で、民事調停は原則として簡易裁判所での話し合いによる解決を目指す手続きです。利用は弁護士などの専門家にご相談ください。

まとめ

StockLab/shutterstock.com

退去費用の相場は物件や契約内容で大きく変わり、統一の金額は公的資料にも示されていません。ただし、借主が負担するのは、原則として故意・過失などによる損耗で(有効な特約がある場合を除く)、経過年数や補修範囲も考慮されるという考え方は共通しています。

入居時の記録、特約の確認、立ち会いでの確認、請求書の内訳チェックを押さえておくと、請求額を落ち着いて見直せます。無理のない範囲から確認してみてください。

川崎 瑞季
監修者川崎 瑞季宅地建物取引士/不動産・金融ライター

退去費用の請求金額が想定より多く、驚く方は少なくありません。不安な点や分からない点があるときは、請求された金額をそのまま受け入れるのは避けましょう。

特に、通常損耗や経年劣化まで借主負担になっていないか、特約の内容が明確か、経過年数が考慮されているかは必ず見ておきたいポイントです。

しかし、すべての請求が不当というわけでもありません。使い方次第では、ワンルームでも10万円を超えるケースもあるため、「何に対する請求なのか」を把握することがもっとも大切です。

ご利用にあたっての注意

本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品・サービス・業者の購入や契約を推奨・勧誘するものではありません。

記載の費用・制度・ガイドラインの内容は2026年10月時点の目安であり、地域・条件・時期により異なります。個別の請求の適否や特約の効力は、契約内容や状況によって判断が分かれます。最新の情報や個別のご事情については、公式情報の確認および専門家(弁護士・宅地建物取引士等)、消費生活センター、各自治体の窓口へご相談のうえ、ご自身の判断で行ってください。

参考情報

LIMO&ホーム編集部
くらしとお金の経済メディア「LIMO」住まい・暮らし領域『LIMO&ホーム』編集部
川崎 瑞季
宅地建物取引士/不動産・金融ライター

関連タグ