この記事はここがポイント
- 親の相続経験者の約6割が「生前に十分話し合えなかった」と回答。52.1%は「親が生前に行った準備は特にない」(JCOM調査)
- 実家を相続する可能性がある人の74.58%が、資産価値や権利関係を「まったく把握していない」(株式会社中央プロパティー調査)
- 防災グッズを見直すタイミングは、実は相続・終活の話を切り出す、ちょうどいいきっかけになる
「もっと早く、話しておけばよかった」。親の相続を経験した人に、こんな後悔を口にする方は少なくありません。実は筆者自身も、その一人です。
相続というと、不動産や預貯金といった大きな資産を思い浮かべる方が多いと思います。
でも筆者は、たとえば「物置の鍵がどこにあるか」「あの書類はどこにしまってあるか」といった、一見ささいなことも、広い意味では"相続"に含まれるのではないかと感じています。
もちろん法律上の定義ではありませんが、そうした「受け渡す・引き継ぐ」という意識を家族の間で少し持てているだけで、残す側にとっても、残される側にとっても、意味のある、困らない備えになるはずです。
最新の調査を見ても、多くの家族が「話し合えないまま」その時を迎えているのが実情です。
今回は、9月1日の「防災の日」をきっかけに、相続・終活の話をどう始めるか、についてお伝えします。
親の相続、生前に「話し合えなかった」人が6割
調査概要
JCOM株式会社が2026年8月に発表した調査(直近5年以内に親の相続を経験した30〜60代の男女330名対象)によるものです。
生前の話し合い、約6割が「できなかった」
生前に「相続や財産について十分に話し合う機会がなかった」と回答した人は約6割。「あまり話し合わなかった」(29.7%)、「全く話し合わなかった」(29.4%)を合わせるとこの数字になります。さらに、半数以上(52.1%)が「親が生前に行った準備は特にない」と回答しました。
また、親の相続を振り返り「生前に行っておく必要があったと思うこと」として下記のような項目が挙がりました。
生前に行っておく必要があったと思うこと
- 実家の片付け・不用品の処分:40.3%
- 相続について家族で話し合う機会を設けること:30.9%
- 財産目録の作成・資産の可視化:26.4%
いずれも、本人が元気なうちにしかできないことばかりです。「まだ大丈夫」「そのうち話そう」と思っているうちに、機会を逃してしまうご家庭は、決して少なくないのだと感じます。
《実家や資産の「知らない」を放置していませんか》
実家の資産、74.58%が「まったく把握していない」
株式会社中央プロパティーが2026年8月に発表した調査(40歳代〜60歳代以上の男女240名対象)では、将来相続する可能性がある不動産について「正確な資産価値」や「境界線・権利関係」を「まったく把握していない」と答えた人が74.58%。
過去に調査した経験がある人を含めても、85%が現状を正しく認識できていないという結果でした。半数近い48.75%は、実家がその相続対象になる可能性があると答えています。
長年住み続けている実家ほど、「お隣とはなんとなくこの辺りで」といった調子で、境界線があいまいなまま代々続いてきた、というケースも少なくないのではないでしょうか。
話し合いが進まない理由
- 親が元気なうちは「相続」の話を切り出しにくい:26.23%
- なんとなく話したことはあるが、具体的な結論は出ていない:31.71%
- 親が元気なため、まだ全く話し合っていない:33.33%
後者2つを合わせると、約65%が具体的な方向性を共有できていません。誰かが悪いわけではなく、「切り出しにくさ」こそが、多くの家庭に共通する一番の壁なのだと思います。
「知らない」まま残されがちなのは、不動産だけではありません。
「入っていたはずの生命保険」「昔つくって、そのままになっている預金口座」も、生前に話を聞けていないと、相続の場面で家族を悩ませる典型例です。
理想はもちろん、元気なうちに本人から聞いておくこと。ただ、それがどうしても叶わなかったとしても、諦める必要はありません。
ここ数年で、亡くなった後に、相続人などが"本人しか知らない資産"を一括で照会できる公的な仕組みが整ってきているからです。
生命保険は「生命保険契約照会制度」
生命保険契約照会制度のしくみ
一般社団法人生命保険協会が運営する制度で、2021年に始まりました。
- 利用できる場面:本人の死亡、または判断能力の低下後に、家族などが利用
- 分かること:加盟する保険会社の中で、契約の有無と契約先の会社名
- 分からないこと:保障内容や保険金額
- 料金:Web申請6000円・書面申請7000円(2026年4月時点の料金)
預貯金は「相続時預貯金口座照会」
預金保険機構が運営する制度で、2025年4月に始まりました。
- 利用できる場面:本人の死亡後、相続人などが利用
- 対象となる口座:本人が生前にマイナンバーを付番(登録)していた口座に限る
- 分かること:金融機関名・支店名・口座番号
- 分からないこと:残高
- 料金:5060円
※単に親がマイナンバーカードを持っていた、というだけでは対象になりません。生前に口座とマイナンバーの紐づけ(付番)が済んでいる口座だけが照会対象になる点に注意が必要です。
どちらも保障内容や残高までは分からず、「どこにあるか」を調べるための制度ですが、"聞きそびれてしまった後"の安心材料として、覚えておいて損はありません。
問題は、「相続」や「終活」という言葉そのものが重すぎることかもしれません。だとすれば、いきなりその言葉を使う必要はありません。
「家族の引き継ぎメモ」「もしもの情報シェア」くらいの軽さから、別の入口で話を始めてみるのも一つの手です。
校閲者出身の編集記者。人文社会系の一般書籍の校閲・社会科教材の制作を15年間経験。実体験から相続や介護について当事者目線で紐解くことを信条としている。証券外務員二種(二種外務員資格)・相続診断士・ガーデンコーディネーター資格を保有、早稲田大学卒。
