この記事はここがポイント
- 国土交通省のガイドラインでは、賃貸における自殺や特殊清掃を伴う事案の告知期間は概ね3年が目安。
- 自然死や日常生活の不慮の死は原則告知不要だが、特殊清掃や大規模リフォームが行われた場合は告知の対象。
- 契約前には宅地建物取引業法に基づく重要事項説明等の書面で事案の時期や死因を確認し、記録を残す対応。
物件情報に「告知事項あり」と書かれていると、何があった物件なのか、住んでも大丈夫なのかと不安になる方は少なくありません。物件の条件によっては、なおさら気になるところです。
一方で、この表記だけでは告知の中身は分かりません。意味と仕組みを知っておくことが、落ち着いて判断する第一歩になります。
そこで今回は、国土交通省のガイドラインをもとに、「告知事項あり」の意味、告知の対象になる場合とならない場合、賃貸で告知が必要とされる期間の目安、契約前に確認したいポイントを順を追って整理します。本記事は【2026年10月時点】の情報にもとづきます。
世の中には事故物件をモチーフにしたホラーなどが数多くありますが、「告知事項あり」と書かれているだけで、すぐに危険な物件と決めつける必要はありません。
ただし、告知事項の多くは人の死や周辺環境、建物の不具合など、契約するかどうかにかなり大きく影響する内容です。「告知事項あり」の物件が気になっているときは、まず詳細を確認することが大切です。
「告知事項あり」とは?物件情報での意味
「告知事項あり」は法令で定められた用語ではありませんが、一般に、契約するかどうかの判断に影響しうる事柄について、不動産会社から借主や買主へ伝える内容があることを示す表記です。具体的な内容は、この言葉だけでは分かりません。
告知される内容の代表例が、その物件で過去に起きた人の死に関する事案です。ただし、雨漏りなどの建物の不具合や周辺環境に関することなど、人の死以外の内容が書かれる場合もあります。
詳しい内容は、不動産会社への質問や、契約前に渡される書面で確かめることになります。
不動産会社に説明義務がある根拠
宅地建物取引業法35条1項は、宅地建物取引業者が、契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして重要事項を記載した書面を交付して説明させなければならないと定めています。
また、宅地建物取引業法47条1号は、宅地建物取引業者が取引の勧誘などの際に、相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項などについて故意に事実を告げず、または不実のことを告げる行為を禁じています。
人の死に関する事案の告知は、35条1項に列挙された重要事項の説明そのものではなく、主にこの47条1号の考え方にもとづくものです。
人の死の告知は国土交通省のガイドラインが目安
人の死に関する告知について、国土交通省は2021年10月に『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』を公表しています。
国土交通省によると、このガイドラインは、宅地建物取引業者が宅地建物取引業法上負う義務の解釈について、現時点で妥当と考えられる一般的な基準をまとめたものです。
対象は居住用の不動産です。人が継続的に生活する場であり、取引の判断に与える影響の度合いが高いと考えられるためとされています。オフィスなどは対象外です。
国土交通省が出しているガイドラインはあくまでも参考であり、すべてのケースを機械的に判断するものではありません。実際、ガイドラインでも告知が必要かどうかの判断は周知性、時間の経過、物件の特性などによって変わり得るとされています。
そのため「3年経ったから絶対に説明不要」「自然死だから不動産会社に何も聞けない」と考えるのではなく、気になる点は柔軟に質問してもOKです。判明している範囲で、できる限りの説明を受けましょう。
告知の対象になる場合とならない場合を整理
ガイドラインが示す考え方を、賃貸の場合を中心に表にまとめます。あくまで原則の整理です。
告知の対象になる場合とならない場合
自然死・日常生活の中での不慮の死は原則として告知不要
ガイドラインは、老衰や持病による病死などの「自然死」について、居住用不動産で起こることは当然に予想されるものだと説明しています。日常生活の中で起きた不慮の事故による死についても、同様の考え方が取られています。
したがって、これらは原則として、賃貸でも売買でも告げなくてよいとされています。
例外:特殊清掃等が行われた場合
ただし、自然死や不慮の死でも、長期間人知れず放置されたことなどに伴い、いわゆる特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は別です。
ガイドラインは、この場合を「告げなくてよい場合」から外し、借主や買主の判断に重要な影響を及ぼす可能性があるものとして扱うとしています。
賃貸では「概ね3年」が告知の目安
賃貸借取引について、ガイドラインは、特段の事情がない限り、自殺・他殺などは発生から、特殊清掃等が行われた死は発覚から、それぞれ概ね3年を経過した後は、原則として借主に告げなくてもよいとしています。
この「3年」は一律の期限ではなく、「概ね」の目安です。事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案は、3年が過ぎても告知が必要になりうるとされています。なお、概ね3年という目安は賃貸借取引についてのもので、売買取引については期間の目安は示されていません。
隣接住戸・共用部分の扱い
取引対象ではない隣接住戸や、借主・買主が日常生活で通常使用しない共用部分で起きた死についても、原則として告げなくてよいとされています。ただし、事件性などが特に高い事案は例外です。
一方、借主が日常生活で通常使用する必要があり、住み心地に影響しうる共用部分(玄関・エレベーター・廊下・階段のうち日常的に使う部分など)は、取引対象の住戸と同様に扱うとされています。
買主・借主から尋ねられた場合は、期間や死因を問わず答える必要がある
ガイドラインは、上記が原則だとしたうえで、借主・買主から事案の有無を問われた場合には、発覚から経過した期間や死因にかかわらず、調査で判明した点を告げる必要があるとしています。
社会的影響の大きさから、借主・買主が把握しておくべき特段の事情があると宅建業者が認識した場合も同様です。
気になる点は、遠慮せずに質問して差し支えありません。ただし、不動産会社が告げるのは、売主・貸主・管理会社への照会などで把握できた範囲です。ガイドラインは、自ら近隣への聞き込みやインターネット調査まで行う義務はないとしており、照会先が不明と答えた場合は、不明である旨を伝えれば足りるとされています。
何か気になることがある場合、「この物件で過去に人の死に関する事案はありますか」「特殊清掃や大規模リフォームは行われていますか」など、具体的に質問をしてみてください。
漠然と「事故物件ですか」と聞く方もいますが、何を答えるべきなのか判断に迷う事案もあります。そのため、具体的な質問で発生場所・時期・死因・特殊清掃の有無を確認した方が、不動産会社や宅建士からの回答もわかりやすくなるでしょう。
ただし、宅建業者に近隣への聞き込みやインターネット調査まで義務づけられているわけではありません。特に人の死については、細かな状況がわからないケースもあるため、今ある情報の中で判断することも重要です。
告知される内容と、告げる必要がないとされる個人情報
告知する場合、宅建業者は、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因(不明な場合はその旨)、特殊清掃等が行われた場合はその旨を伝えるものとされています。
一方で、国土交通省のガイドラインによると、亡くなった方や遺族の名誉と生活の平穏に配慮するため、氏名、年齢、住所、家族構成、具体的な死の態様や発見状況などを告げる必要はないとされています。
契約前に確認したい3つのポイント
ステップ①:何についての告知かを具体的に質問する
人の死に関する事案か、それ以外かを尋ねます。人の死であれば、発生時期、場所、死因、特殊清掃等の有無を確認します。
ステップ②:重要事項説明書など書面の記載を確認する
宅地建物取引業法35条1項にもとづく重要事項説明は、書面の交付(相手方の承諾がある場合は電磁的方法による提供)を伴います。口頭で聞いた内容が書面にどう書かれているかを照らし合わせます。
人の死に関する事案は、重要事項説明書の項目として法令上列挙されているわけではないため、記載が見当たらない場合は、売主・貸主が記入する告知書(物件状況等報告書)があるかを尋ねることも考えられます。
ステップ③:説明内容を書面で残してもらう
国土交通省のガイドラインは、告知する際には、後日のトラブル防止の観点から書面の交付等によることが望ましいとしています。
納得できない点が残る場合は、契約を見送るという選択肢もあります。
賃料・住み心地への影響は物件や事案によって異なる
告知事項がある物件の賃料が、そうでない物件と比べて低くなるのかどうかについては、一律の傾向を示す公的な資料を確認できていません。物件や事案、地域によって異なるため、ここでは断定を避けます。
また、ネット上では実際に住んだ方の体験談が見られることもありますが、個人の感じ方に関わる内容です。国土交通省のガイドラインも、人の死に関する事案の評価は買主・借主の個々人の内心に関わる事項であり、取引の判断にどの程度の影響を及ぼすかは当事者ごとに異なるとしています。
体験談は事実の確認とは切り分け、ご自身が何を重視するのかを整理して、条件を比べたうえで検討するのが現実的です。
告知事項がある物件の場合、基本的には相場より賃料が安くなります。そのため、条件面で魅力的に見えるケースはかなり多いでしょう。しかし、賃料が安いかどうかだけで判断すると、入居後に心理的な負担を感じる可能性もあります。
実際、どのくらいの心理的な負担を感じるかどうかは、個人の性格や状況にもよりますし、実際に住んでみないとわからないケースもあります。
なので、「自分は大丈夫」と思っていても大丈夫ではなかった場合に備え、他の物件や周辺エリアの相場も確認しておくのがおすすめです。
契約後に重要な事実を知らされなかった場合は
契約後に、重要な事実について説明を受けていなかったことが分かった場合は、まず重要事項説明書の記載ややり取りの記録を整理し、仲介した不動産会社に事実関係を確認します。
解決しない場合は、不動産会社の免許行政庁(都道府県知事免許の業者は都道府県の宅建業担当課、国土交通大臣免許の業者は地方整備局等)や、弁護士などの専門家への相談が考えられます。
どこが窓口になるかは、不動産会社の免許番号(「○○県知事(○)第○号」「国土交通大臣(○)第○号」など)で確認できます。
民事上の責任は、取引当事者の依頼内容や契約の内容によって個別に判断されるため、ガイドラインに沿った対応がされたかどうかだけでは決まらないとされています(国土交通省ガイドライン)。
まとめ:「告知事項あり」は、中身を確認してから判断を
「告知事項あり」という表記は、何かを伝える必要がある事柄があることを示すだけで、内容は物件ごとに異なります。人の死に関しては、国土交通省のガイドラインが、告知の範囲や賃貸での概ね3年という目安を示しています。
自然死や日常生活の中での不慮の死は原則として告知不要ですが、特殊清掃等が行われた場合は別の扱いです。事件性などが特に高い事案は、3年が過ぎても告知が必要になりうる点も押さえておきましょう。
ポイントを整理しました。まずは何についての告知かを具体的に尋ね、書面の内容を確認し、説明を書面で残してもらう。この流れを、ご自身のペースで進めてみてください。
「告知事項あり」にはさまざまな内容があるため、必ずしも「告知事項があるからこの物件には住めない」と考える必要はありません。
しかし、何が、いつ、どこで起きたのか、特殊清掃等はあったのかなどの情報から、自分が許容できるかを判断しましょう。少しでも説明が曖昧だと感じたらその場で契約せず、もっと他の情報がないか聞いてみてください。
ご利用にあたっての注意
- 本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の商品・サービス・業者の購入や契約を推奨・勧誘するものではありません。
- 本記事は2026年10月時点で確認できた国土交通省のガイドライン等にもとづく一般的な整理です。告知の要否や範囲は、個別の事案の態様や取引の内容によって異なります。また、ガイドラインは今後の裁判例や取引実務の変化により見直される可能性があります。
- 最新の情報や個別のご事情については、公式情報の確認および専門家(宅地建物取引士、宅建業の免許行政庁、弁護士 等)へのご相談のうえ、ご自身の判断で行ってください。
参考情報
株式会社モニクルリサーチが運営する経済メディア『LIMO』の住まい・暮らし領域『LIMO&ホーム』編集部。元金融機関出身者や元記者、専門資格保有者が住宅・お金・ガーデニングなどを解説する。
宅地建物取引士の資格を持ち、京都大学で都市・交通経済学を専攻。不動産・金融領域を中心にライターとして7年活動する。転居や街歩きの実体験も活かし、複雑な専門知識を初心者にも分かりやすく発信している。