この記事はここがポイント
- 家相は科学的根拠や法的強制力を持たず、建築基準法とは異なる伝統的考え。
- 暮らしやすさや安全性、家族の価値観を最優先し、家相は判断材料の一つとする考え。
- 鬼門・裏鬼門など家相の工夫は、暮らしやすさを損なわぬ範囲でのバランス。
新築やリフォームで間取りを考えているとき、家族や親から「家相は気にしなくていいの?」と聞かれて戸惑った経験はありませんか。
家相という言葉は知っていても、具体的に何を指すのか、どこまで取り入れるべきものなのか、あいまいなまま検討を進めている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、大手住宅メーカーで38年間勤務し、350棟を超える住まいづくりに携わった実務家である住宅のプロに、間取りと家相の関係について伺っていきます。
実際の住まいづくりで、間取りの打合せ時に意外と多かったのが「家相をどう考えればいいですか」というご相談です。
特に本人はそれほど気にしていなくても、実家のご両親などから「鬼門だけは避けるべき」と言われて、着工直前になって間取り変更を求められるケースもありました。
家相は、もともと採光・通風・湿気対策など環境面の知恵が元になっている部分もあります。しかし、科学的に実証された根拠はなく、建築基準法のような強制力もありません。だからといって、家相を気にするご家族の気持ちを「迷信だから」と一蹴してしまうのも、家族が納得する家づくりにならないかも知れません。
しかし、家相を重視するために、暮らしやすい間取りの合理性を欠いてまでこだわる必要はないと私は考えています。家は何十年も暮らす場所ですから、毎日の使いやすさや安全性を最重視して計画すべきだと思います。
私の経験から感じるのは、家相は「正しいか、間違っているか」で判断するよりも、家族が安心して暮らすための価値観の一つとして捉えることが大切だということです。
家相は科学的な根拠が実証された制度ではなく、日本で古くから伝わる伝統的な考え方・慣習であるという前提を踏まえたうえで、参考情報としてご覧ください。
家相とはどのような考え方か
家相は、住宅の位置や間取り、建物の配置によって、そこに住む人の運勢が左右されるという考え方です。
もとをたどると中国古代に生まれた陰陽五行思想の中の方位に関する説にたどり着き、それが日本へ伝わったのち、住まいの間取りや建物配置を検討する際の伝統的な視点として長く受け継がれてきました。
家相と似た言葉に「風水」がありますが、風水は中国で生まれた環境と運気に関する思想全般を指すのに対し、家相は日本の住宅事情に合わせて独自に発展してきた考え方とされています。
厳密な体系や流派によって解釈が異なる点も、家相の特徴の一つです。
「鬼門」「裏鬼門」という方位の考え方
家相の話でたびたび出てくるのが「鬼門」「裏鬼門」という言葉です。
北東の方位を鬼門、その正反対にあたる南西の方位を裏鬼門と呼び、家相ではこれらの方位を良くないものとして扱い、玄関や水回りといった設備の配置を避ける傾向があります。
こうした鬼門にまつわる考え方は、家相を語るうえで欠かせない要素の一つとされています。
家相は間取りの吉凶を方位などから考えるものですが、こうした考え方は住宅だけでなく、都市や建物の配置にも影響を与えてきました。江戸城をめぐっても、上野の寛永寺を鬼門、芝の増上寺を裏鬼門の守りとする説が知られています。
間取りでよく言及されるポイント
家相の考え方では、間取りについて次のような点がよく話題になります。
あくまで伝統的な言い伝えとして紹介するもので、効果が科学的に実証されているわけではありません。
- 玄関の位置:鬼門・裏鬼門を避けて配置するとよいとされることがあります。
- トイレ・浴室などの水回りの位置:鬼門・裏鬼門に配置しないほうがよいと言われることがあります。
- キッチンの位置:火と水を扱う場所として、方位への配慮が語られることがあります。
- 家の形状:長方形に近い整った形(張りのある間取り)が良いとされ、一部が欠けたような形状(欠けのある間取り)は避けたほうがよいという考え方があります。
これらは家相の分野で伝統的に語られてきた考え方であり、住宅の性能や安全性を保証する基準ではありません。
家相のいわれは単なる迷信だけでなく、なるほど理にかなっている点もあります。江戸時代以降に日本の住環境に合わせて発展してきたとされますが、現代の住宅事情は大きく変化しています。次の例は、私がよくお客様に説明した考え方です。
例えば、「トイレ・キッチンが鬼門(家の中心から北東の位置)にあるのは凶」という考え方。昔は水洗式ではないため不衛生で湿気がある厠は家を傷めるので不浄、という説がありますが、現代では下水配管ルートは建物外周を廻っています。厨房も火を使う「かまど」があるので、北東の季節風に煽られ母屋に飛び火する、という云われのようです。
「鬼門」を気にする場合の間取りの工夫
鬼門・裏鬼門にあたる方位に水回りを配置しないという考え方を取り入れたい場合、実際の設計では次のような工夫が語られることがあります。
- 玄関やトイレの位置を、方位図(家相図)で鬼門・裏鬼門にあたらない場所に配置する
- どうしても水回りが鬼門・裏鬼門にかかってしまう場合は、換気や採光を工夫して清潔感を保つ、といった代替の考え方をとる
- 建物全体の形状を、なるべく欠けやでこぼこの少ない整った形にする
ただし、こうした工夫を優先しすぎると、動線や収納など暮らしやすさに関わる設計が制約されることもあります。
家相の考え方と暮らしやすさのどちらを優先するか、優先順位をあらかじめ決めておくと、設計の打ち合わせがスムーズになります。
家相を調べる方法
家相を本格的に取り入れたい場合、住宅会社や建築士の中には、家相に詳しい担当者や、家相を専門とする鑑定士と連携しているケースもあります。
方位を正確に測定するには、敷地の正確な方位(真北)を把握する必要があるため、独学で判断するよりも、間取り図を基に相談できる専門家に確認するほうが、誤った判断を避けやすくなります。
相談する場合も、鑑定結果を絶対的なものと捉えるのではなく、参考意見の一つとして取り入れるとよいでしょう。
家相は方位で判断しますので、真北の方向が重要なのですが、方位磁石が示す北と真北は微妙にズレます。家の中心も、荷重心の位置をだす必要があり、こだわるなら専門家へ相談するしかありません。建築会社の担当者でも、図面上でチェックする簡易な家相方位盤を持っていることがあります。
リフォーム・増改築で家相を意識する場合
リフォームや増改築でトイレや水回りの位置を変更する際にも、家相を気にされる方がいます。
ただし、配管の位置や構造上の制約によって、間取りを自由に変更できない場合も少なくありません。
リフォームの場合は、家相上の希望と、実際に工事で対応可能な範囲をリフォーム会社と相談しながら、無理のない範囲ですり合わせていくことになります。
家相と、建築基準法などの公的な建築規制は別のもの
家相は民間の伝統的な考え方であり、建築基準法や都市計画法のような、国が定める公的な建築規制とは全く別のものです。
建築基準法では、用途地域による建ぺい率・容積率の制限や、敷地が道路に接する長さの基準(接道義務)など、安全性や都市計画上の観点から具体的な基準が定められています。
一方、家相にはこうした法的な強制力はなく、取り入れるかどうかは個人や家族の考え方次第です。
間取りを検討する際は、まず建築基準法などの公的な基準を満たすことを前提としたうえで、家相をどこまで取り入れるかを検討するとよいでしょう。
家相を取り入れるかどうかの考え方
家相をどこまで意識するかについては、次のような視点で家族と話し合ってみることをおすすめします。
- 家族の中で家相を重視する人がいる場合は、その考え方を尊重しつつ、間取りの機能性や暮らしやすさとのバランスを取る
- すべての項目を完璧に満たそうとすると、動線や採光など暮らしやすさに関わる設計の自由度が下がることがあるため、優先順位を決めておく
- 気になる場合は、家相に詳しい建築士や専門家に相談し、間取りの機能性を損なわない範囲での工夫を検討する
家相は「絶対に守らなければならないルール」ではなく、住まいづくりを考えるうえでの一つの視点として捉えると、無理なく取り入れやすくなります。
よくある疑問
家相について、よく聞かれる疑問を整理します。
- 家相を無視すると必ず悪いことが起きるのか:家相はあくまで伝統的な考え方であり、科学的に効果や影響が実証されているものではありません。取り入れるかどうかは、ご自身やご家族の価値観次第です。
- マンションでも家相は関係あるのか:家相は本来、戸建て住宅の敷地全体の方位を前提とした考え方ですが、マンションの一室の間取りに当てはめて考え方を参考にする方もいます。
- 家相と占いは同じものか:家相は方位に基づく間取りの吉凶判断であり、個人の運勢を占う占い全般とは扱う対象が異なりますが、いずれも科学的な実証を伴うものではない点は共通しています。
まとめ
間取りにおける家相の基本的な考え方を整理しました。家相は中国古代の陰陽五行思想に由来する伝統的な考え方であり、科学的な根拠が実証された制度ではありません。
建築基準法など公的な建築規制とは別のものであることを踏まえたうえで、ご家族の価値観に合わせて、無理のない範囲で取り入れるかどうかを検討してみてください。
家相は家族が納得できる住まいをつくるための一つの判断材料のようなもの
ご利用にあたっての注意
本記事は、家相という伝統的な考え方を紹介する情報提供を目的としたものであり、特定の効果を保証したり、特定の間取り・鑑定サービス・業者の利用を推奨・勧誘したりするものではありません。家相の解釈は流派や地域によって異なる場合があります。間取りの検討にあたっては、建築基準法など公的な基準の確認を優先したうえで、必要に応じて建築士等の専門家にご相談ください。
参考情報
株式会社モニクルリサーチが運営する経済メディア『LIMO』の住まい・暮らし領域『LIMO&ホーム』編集部。元金融機関出身者や元記者、専門資格保有者が住宅・お金・ガーデニングなどを解説する。
大手住宅メーカーで38年間勤務。350棟超の住まいづくりに立ち会い、国内の住宅営業・支店運営から、海外法人の経営、都市開発まで経験。住文化や住宅事情を知る実務家として、住まいを暮らしの視点から解説。
私が実感していることは、「家相を完璧に満たすこと」と「暮らしやすい間取り」は、時に両立が難しいという点です。鬼門を意識するあまり、日当たりの悪い場所にリビングを配置したり、家事動線を犠牲にしたりして、毎日の使いやすさよりも家相を優先する必要はないと思っています。
また、ご家族の中で家相への考え方に温度差がある場合もあります。例えば、ご両親は気にするが、実際に住むご夫婦はそれほど重視していない、といったケースです。こうした場合は、どちらかが我慢するのではなく、「玄関の位置は方位を意識するけれど、水回りは動線を優先する」というように、項目ごとに優先順位をつけて話し合うことをおすすめしてきました。建築前にできる範囲で調整しておくほうが、家族にとって心穏やかに暮らせます。
どちらかを一方的に否定することではなくて、よい間取りには、一つの正解があるわけではない、と考えています。
家相は、「絶対に守るべきルール」でも「無視すべき迷信」でもなく、家族が納得できる住まいをつくるための一つの判断材料のようなものです。建築上の安全性や暮らしやすさを基本にしながら、家族それぞれの価値観も取り入れていく。そのバランスこそが、長く愛着を持って暮らせる家につながるのだと思います。