この記事はここがポイント
- 持ち家と賃貸の損得は金利や居住年数、家族構成で異なり、一律判断は不能。
- 持ち家は住宅ローン減税があり資産だが、税金や修繕費の継続負担も発生。
- 老後の暮らし方やライフイベントに応じ、住み替えやすさを考慮した検討が肝要。
「結局、持ち家と賃貸はどちらが得なのだろう」——マイホームを考え始めると、一度は気になるテーマではないでしょうか。
住宅ローンを組んで持ち家を買うべきか、身軽な賃貸暮らしを続けるべきか、どちらにもメリットとリスクがあり、一概にどちらが得とは言い切れません。
そこで今回は、持ち家と賃貸を比較するときの視点と、それぞれにかかる費用の目安、ライフスタイル別の考え方を、大手住宅メーカーで38年、350棟を超える新築住宅の引き渡しを担当し、宅地建物取引士の資格も持つ住宅のプロに伺っていきます。
住宅営業マンの定番セールストークに、「賃貸より買ったほうが絶対に得ですよ」という決まり文句があります。住宅展示場やマンションモデルルームで一度は耳にしたことがあるかも知れません。「賃貸で払う家賃は手元に残らないが、住宅ローンは返済が終われば家は自分のものだから毎月貯金するのと同じ」というわかりやすいロジックです。
しかし、本当にそうでしょうか。
「持ち家と賃貸では、どちらが得か」というこの質問は、不動産業界の神学論争のような水掛け論とも言われ、万人に当てはまる正解があるわけではありません。実際には住宅ローン金利、居住年数、家族構成の変化、などの条件次第で損得は簡単に逆転します。今回の記事は、複数の視点でメリットとデメリットが整理されており、住まい選びの本質を捉えた説明がされています。意外と知られていない、双方のメリットを享受しリスクをコントロールできる方法もありますので最後に紹介します。
なお、記載の制度・金額は2026年時点の目安であり、具体的な資金計画についてはファイナンシャルプランナーや住宅ローンアドバイザーなど専門家にご相談のうえで検討してください。
「得か損か」は一律に決められないテーマ
持ち家と賃貸の損得は、住宅ローンの金利や返済期間、住み続ける年数、家族構成の変化、転勤の有無など、多くの条件によって結果が変わります。
そのため「持ち家のほうが必ず得」「賃貸のほうが必ず得」と断定することはできません。まずは、比較する際の視点を整理しておきましょう。
- 総支払額:住宅ローンの総返済額と、賃貸で住み続けた場合の家賃総額のどちらが大きいか
- 資産として残るか:持ち家は完済後に資産として残る一方、賃貸は住み続ける限り家賃を払い続ける
- 住み替えのしやすさ:転勤や家族構成の変化に応じて住まいを変えやすいのはどちらか
- 維持管理の手間:修繕やメンテナンスの負担をどちらが担うか
持ち家にかかる費用の目安
持ち家の場合、住宅ローンの返済に加えて、次のような費用が継続的にかかります(いずれも2026年時点の制度・目安です)。
賃貸にかかる費用の目安
一方、賃貸の場合は次のような費用がかかります。
賃貸は初期費用・維持費用が比較的抑えやすい一方、住み続ける限り家賃の支払いが続く点が持ち家との大きな違いです。
住宅ローン減税の概要(持ち家を検討する場合)
持ち家を検討する際に関わる代表的な制度が「住宅ローン減税」です。
国土交通省によると、年末の住宅ローン残高の0.7%が所得税等から控除される制度で、2026年時点では入居期限が令和12年(2030年)12月31日まで延長されています。
控除期間は新築住宅等で原則13年、既存住宅で原則10年(省エネ性能の高い既存住宅は13年)です。
適用には床面積要件や省エネ基準(断熱等性能等級4以上等)などの条件があるため、個別の適用可否は国土交通省の公式情報や税務署、住宅ローンアドバイザーへの確認をおすすめします。
ライフスタイル別に考える判断軸
比較の視点を踏まえたうえで、ご自身のライフスタイルに当てはめて考えてみましょう。
- 転勤や引っ越しが多い場合:住み替えの身軽さを重視するなら、賃貸の柔軟性がメリットになりやすい傾向があります。
- 長く同じ地域に住む予定がある場合:資産として残ることを重視するなら、持ち家を選択肢として検討しやすくなります。
- 修繕・管理の手間をかけたくない場合:持ち家は所有者自身が修繕の計画・費用を負担する必要があります。
- 老後の住まいまで見据える場合:次の章で解説する老後の住まい方も合わせて考えておきたいポイントです。
- 世帯の収入やライフイベントの変化が見込まれる場合:出産・転職・介護など、将来の収入・支出の変化も踏まえて無理のない返済計画かどうかを確認しておくと安心です。
老後の住まい方も見据えて
持ち家は完済後、住居費の負担が軽くなりますが、老朽化に伴う修繕費や、将来的な相続・空き家化のリスクも意識しておく必要があります。
一方、賃貸は身軽さがある反面、高齢期に新たな賃貸借契約を結ぶ際、貸主の審査によって物件が見つかりにくくなる場合があるとされています。
どちらの住まい方を選ぶ場合も、老後の生活設計やご家族の状況を踏まえて、早めに検討しておくと安心です。
全国65歳以上の持ち家は約84.5%(令和6年高齢社会白書・内閣府)といわれ、持ち家論争の現実的な焦点は、この高齢者入居の問題にあるかもしれません。
孤独死、残置物処理、滞納トラブルなどで、入居審査時の年齢フィルターが厳しく、貸主側に一定の拒否感があることは内閣府調査でも示されています。手すりやバリアフリー、通報装置などコスト面からの供給ハードルも高く、高齢者入居には厳しい現実があります。
簡易的な比較シミュレーションの考え方
「持ち家と賃貸、実際どのくらい差が出るのか」を大まかにイメージするには、次のような要素を書き出して比較する方法があります。
- 持ち家側:住宅ローンの総返済額の見込み+固定資産税・都市計画税の総額の見込み+修繕費・保険料の見込み
- 賃貸側:想定する居住年数分の家賃総額+更新料の見込み+引っ越し費用の見込み
いずれも将来の金利動向や家賃相場の変化によって結果が変わるため、あくまで「大まかな傾向をつかむための考え方」として捉えるのが現実的です。
正確なシミュレーションを行いたい場合は、住宅ローンアドバイザーやファイナンシャルプランナーに相談し、ご自身の収入・支出の状況に合わせて試算してもらうことをおすすめします。
持ち家・賃貸それぞれのメリット・デメリット
最後に、これまでの内容を簡単に整理します。
まとめ
持ち家と賃貸の比較ポイントを整理しました。「どちらが得か」を一律に決めることは難しく、総支払額・資産形成・住み替えのしやすさ・老後の暮らし方など、複数の視点から検討することが大切です。
ご自身やご家族のライフスタイル、将来の見通しに合わせて、無理のない住まい選びを進めてみてください。
家を持つか持たないかを状況に応じて選べることが新しい豊かさの形に
ご利用にあたっての注意
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の住宅ローン商品・物件・業者の契約を推奨・勧誘するものではありません。記載の制度・金額は執筆時点(2026年)の目安であり、個人の状況や地域、時期により異なります。住宅ローンや税制の適用可否など具体的な資金計画については、公式情報の確認および専門家(ファイナンシャルプランナー・住宅ローンアドバイザー・税理士 等)へのご相談のうえ、ご自身の判断で行ってください。
参考情報
株式会社モニクルリサーチが運営する経済メディア『LIMO』の住まい・暮らし領域『LIMO&ホーム』編集部。元金融機関出身者や元記者、専門資格保有者が住宅・お金・ガーデニングなどを解説する。
大手住宅メーカーで38年間勤務。350棟超の住まいづくりに立ち会い、国内の住宅営業・支店運営から、海外法人の経営、都市開発まで経験。住文化や住宅事情を知る実務家として、住まいを暮らしの視点から解説。
耳寄りな話で一つ付け加えたいのが、賃貸と持ち家を組み合わせる「ハイブリッド」という考え方です。
その一例が、借地権を利用して土地を借り、その上に自分の家を建てる方法です。いわば「土地は賃貸、建物は持ち家」という考え方で、土地を購入する場合に比べて初期費用を抑えながら、建物にそのコストを投入して内装や設備をグレードアップした設計にすることもできます。
借地権には種類があり、契約期間や更新、地代、譲渡・相続などの条件も異なるため、誰にでも向いているわけではありませんが、「賃貸か持ち家か」という二者択一ではない選択肢として知っておいて損はありません。
「持ち家か賃貸か」に話を戻しますが、最近の海外トレンドでは、持ち家についての価値観の変化がみられるとも聞きました。とくに米国ではマイホーム=アメリカン・ドリームが定説でしたが、住宅価格や金利上昇で「買えない」ではなく、「あえて買わない」という合理的な選択をするひとが増えているようです。
その背景にあるものは、持ち家を資産として考えるのではなく、資産形成と居住を切り分けて考える動きです。つまり、居住は賃貸で柔軟に確保し、資産は流動性の高い株式や債券などの金融商品で持つという考え方です。
金融リテラシーの向上で、持ち家はもはや成功の象徴ではなく、住み替えなど賃貸生活の柔軟性を重視する人が増え、成功の定義が「所有すること」から「選択肢を持つこと」へとシフトしているとも言えます。私の前職の同僚で、現在オーストラリアの都市部に住む知人からの話でも、住宅価格の高止まりによる同様の動きがあるようです。
これは、持ち家の価値が失われるということではなく、持つか持たないかを状況に応じて選べること自体が、新しい豊かさの形として認識され始めているのかも知れません。