この記事はここがポイント
- 帰省時に親の「衰え」を実感した人は74.2%。例年、お盆明けは老人ホーム相談が約3割増える傾向も。
- 国土交通省が2024年6月に公表した「住まいのエンディングノート」で、名義・財産の整理から空き家対策まで1冊でカバーできる。
- お盆の帰省時に一緒に項目を埋めることで、親のプライドを傷つけずに対話をはじめられる。
今年もお盆に、実家へ帰省された方は多いのではないでしょうか。
玄関を開けたとき、一緒に食卓を囲んだとき、「歩くペースが遅くなった気がする」「部屋の隅に、昔はなかった新聞紙や空き缶がたまっている」——そんな小さな違和感を覚えた方もいるかもしれません。
実はこの違和感、あなただけの気のせいではないかもしれません。
LIFULL介護の調査では、別居する親と対面で会った人の74.2%が、親の「衰え」や違和感を実感しているというデータもあります。この違和感を放置すると、実家のゴミ屋敷化や、相続後の空き家化に発展することも少なくありません。
そこで注目してみたいのが、国土交通省が日本司法書士会連合会・全国空き家対策推進協議会と共同で公表した「住まいのエンディングノート」です。実家という「住まい」の将来を、親のプライドを傷つけずに話し合うための公式ツールで、その中身と使い方を詳しく解説します。
お盆で気づいた「親の変化」――実家と空き家に忍び寄るリスク
この違和感を「様子見」したままにすると、実家は片付かなくなり、やがて相続を経て空き家になっていく——そんな連鎖が、複数の調査から見えてきます。
親の「衰え」に気づく帰省時
老人ホーム検索サイト「LIFULL介護」の調査によると、別居する親と対面で会った人のうち74.2%が「衰え」や違和感を実感しているといいます。
歩行・運動機能の変化を感じた人は約7割、記憶・認知機能の変化を感じた人は半数以上にのぼりました。
同調査では、例年の傾向として、お盆期間中と比較し、お盆明け翌々週の老人ホーム問い合わせ件数が約1.3倍(約3割増)に急増するともいいます。
出所:株式会社LIFULL『お盆帰省では、親の”衰えサイン”の見逃しに注意!「帰省時の親の衰え・違和感についての意識調査」をLIFULL 介護が発表』(2026年7月16日)
実家の「ゴミ屋敷化」を招く体力の壁
「訳あり物件買取プロ」の調査結果によると、実家がゴミ屋敷化した原因の1位は「体力の低下」(22.5%)でした。
日々のゴミ出しや重い荷物の整理は、高齢の親にとって想像以上に負担の大きい作業なのです。
また「認知機能の低下」(7.7%)、配偶者との死別(7.4%)、他人との交流減少(5.7%)といったシニア特有の理由も挙がっています。
出所:AlbaLink/訳あり物件買取プロ【実家がゴミ屋敷化した理由は?】子ども世代418人のリアルな苦悩と対策をアンケート調査
相続を経て増える「空き家」
使い道のない「純粋空き家」は、2000年の212万戸から2023年には386万戸へと1.8倍以上に増加しました(※1)。
背景には、被相続人(亡くなった方)が80歳以上だった割合が1989年の約4割から2019年には約7割にまで上昇した「老老相続」の広がりがあります(※2)。
こうした将来のトラブルを防ぐカギとして注目したいのが、国土交通省が推奨する「住まいのエンディングノート」です。
※1:三井住友信託銀行 調査月報2026年1月号「都道府県別に見た『純粋空き家』の動向」
※2:資産形成白書2025(大和アセットマネジメント、P.29「少子高齢化がもたらす相続年齢の変化」)
国が用意した「住まいのエンディングノート」とは?
国土交通省は令和6年(2024年)6月、日本司法書士会連合会・全国空き家対策推進協議会と共同で「住まいのエンディングノート」を公表しました。
空き家対策の一環としてつくられた公式のノートで、対象はあくまで「住まい(土地・建物)」とその相続です。お墓や供養についての記載はなく、あくまで実家という不動産をどうするかに特化した内容になっています。
単なる終活の記録帳ではなく、家族が元気なうちに実家の将来を話し合うための「対話のきっかけ」として設計されている点が特徴です。
「国が家族の対話のために配っている公式のノートなんだって」と切り出せば、親のプライドを傷つけることなく、「終活をさせようとしている」という邪推も防げるかもしれませんね。
「住まいのエンディングノート」(国土交通省作成)
筆者からのコメント【心のケア編】
ここでは、まず「感情面」でのケアについてお話しします。
筆者はかつて、認知症の親の通い介護をしていた時期がありました。
ある日、新聞の集金に来てくれた配達員の方が、対応した親の不穏な様子に異変を感じ取ってくれたそうです。
その方は警察ではなく、地域包括支援センターに連絡してくれました。そこからケアマネジャーを経由して、私のところへ電話がかかってきたのです。
警察に通報する前に、まず地域包括支援センターに連絡しようと判断してくれたこと、今でもありがたく思っています。
地域包括支援センターは、家族が介護の相談をするためだけの窓口ではなく、地域で見守ってくれる人たちをつなぐ「ハブ」のような役割も担っているのだと、この経験から実感しました。
介護保険法に基づき全国に5000カ所以上設置されている公的な窓口で、介護保険の申請だけでなく、生活の困りごとの相談にも無料で応じてくれます。
住まい(不動産)の将来という大きな決断をするためには、まず親自身が抱える日々の暮らしや健康への不安を取り除くことが不可欠です。
「いきなりノートに書き込んで」ではハードルが高くても、「地域にどんな相談先があるか、一緒に調べてみようか」であれば親御さんも受け入れやすいかもしれません。
制度やノートの話をする前に、まず頼れる相談先を知っておくだけで、親子ともに気持ちがぐっと軽くなるはずです。
「住まいのエンディングノート」の中身を徹底解説
では実際に、このノートには何が書けるのでしょうか。全体は大きく2部構成になっています。
第1部「わたし自身のこと」「わたしの住まい・財産について」
生年月日や本籍、もしもの時の連絡先といった基本情報に加え、不動産の所在地・持分・共有者情報、住宅ローンの残債、賃貸借契約の内容、隣地境界や道路の権利関係といった「特記事項」まで記録できます。デジタルデータの保管場所やID・パスワード、遺言書の保管場所を書いておく欄もあり、いざという時に家族が慌てて探し回る事態を防げます。
第2部「住まいの将来を考える際に知っておきたいこと」――5つの選択肢と空き家のリスク
住まいの「活かし方」「しまい方」5つの選択肢
「土地・建物を売る」「解体して土地を売る」「建物だけ貸す」「解体して土地を貸す」「所有し続ける」——住まいが必要でなくなった際の選択肢を5パターンに整理し、親自身の意向を書いておける項目があります。
放置空き家の問題にも触れており、2023年12月13日に施行された改正空家法により、放置すれば「特定空家等」になるおそれのある空き家が「管理不全空家等」として市区町村から指導・勧告の対象になる仕組みも紹介されています。
改正空き家法とは?
2023年12月13日に施行された改正空家法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部改正)は、空き家問題への対応を強化する目的で改正されました。
従来は放置が深刻化した「特定空家等」だけが行政の指導・勧告の対象でしたが、改正後はその手前の段階でも「管理不全空家等」として指導・勧告を受けるようになりました。
加えて、空き家の活用を促進する区域を市区町村が指定できる仕組みや、所有者が分からない空き家について財産管理人の選任を市区町村が請求しやすくする制度も盛り込まれています。
「もしも」の後への備えと生前の備え
自筆証書・公正証書・法務局預託という3種類の遺言書の作成方法や、法定相続の仕組み、2024年4月1日から義務化された相続登記についても解説されています。
加えて、判断能力が衰えたときに備える法定後見・任意後見制度、民事信託、死後事務委任契約といった「生前の備え」も紹介されており、住まいだけでなく、財産管理全体を見渡せる内容になっています。
相続登記の義務化について
相続登記(相続による所有権移転登記)は、2024年4月1日から義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記の申請をすることが義務となり、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象になる可能性があります。
施行日より前に発生していた相続も対象となりますが、経過措置として一定の猶予期間が設けられています。手続きの負担を軽くするため、必要書類を簡略化できる「相続人申告登記」という制度もあわせて新設されました。
お盆の帰省をきっかけに――入手方法と使い方
「住まいのエンディングノート」は、国土交通省のウェブサイトでPDF形式で公開されており、誰でも無料で閲覧・ダウンロードできます。
いきなり「全部書いて」と渡すのではなく、まずは第1部の基本情報など答えやすい項目から一緒に埋めていくのがおすすめです。
すべての項目を1日で埋めきる必要はありません。
「このノート、一緒に埋めてみようか」という軽い声かけから始め、埋まらなかった項目は年末年始やお彼岸など、次に会うタイミングに持ち越してもよいでしょう。
大切なのは、一度に終わらせることよりも、家族で話し合う機会を定期的につくることです。
【筆者コメント:制度・法律面の備え編】
ここでは、感情面のケアと合わせて知っておきたい「制度・法律面」の備えをお伝えします。
このノートにも書かれている通り、2023年12月13日に施行された改正空家法により、放置すれば特定空家等になるおそれのある空き家は「管理不全空家等」として市区町村から指導・勧告を受けるようになりました。
従来の「特定空家等」よりも早い段階で、固定資産税の住宅用地特例が解除される可能性があるということです。
「まだ特定空家じゃないから大丈夫」と先送りできる時間は、以前より短くなっていると考えたほうがよさそうです。
ノートに意向を書いて終わりにするのではなく、「実際に売る・貸すといった行動をいつまでに起こすか」というスケジュール感まで、あわせて話し合っておくことをおすすめします。
まとめにかえて|今年の帰省は「最近どう?」という労わりの言葉から
「実家じまい」は、突き詰めれば「大切な家族のこれから」を一緒に考える、あたたかい作業です。
いきなり書類や制度の話から入るのではなく、「高いところの掃除や重いゴミ出しで困ってない?」「この家、これからどうしていきたい?」——そんな、親の気持ちに寄り添う言葉から始めてみませんか。
「子どもに負担をかけたくない」という親の優しさと、「将来の負担を減らしたい」という自分の現実的な判断は、決して対立しません。国土交通省の「住まいのエンディングノート」を入り口に、まずは一緒に項目を埋めてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
参考資料
校閲者出身の編集記者。人文社会系の一般書籍の校閲・社会科教材の制作を15年間経験。実体験から相続や介護について当事者目線で紐解くことを信条としている。証券外務員二種(二種外務員資格)・相続診断士・ガーデンコーディネーター資格を保有、早稲田大学卒。