エンディングノートより先に、本人の口から聞いておきたい『医療・介護の希望』
metamorworks/shutterstock.com
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エンディングノートより先に、本人の口から聞いておきたい『医療・介護の希望』

敬老の日の週末に始めたい、大切な家族との「人生会議」

執筆者熊谷 良子LIMO&ホーム編集部記者/ 相続診断士 / ガーデンコーディネーター/証券外務員二種資格
09:06
エンディングノートより先に、本人の口から聞いておきたい『医療・介護の希望』
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この記事はここがポイント

  • 「生前に話したいこと」の1位は葬儀。介護や延命治療の話は、実は年々後回しにされがち
  • 介護施設選びでは、本人の意向より家族の判断が優先されるケースが4割超あるというデータも
  • エンディングノートに書く前に、まず本人の口から「医療・介護の希望」を聞いておきましょう

在宅介護の限界、突然の入院、あるいは施設での看取りの意思確認のタイミング……。介護や療養の現場では、ある日突然、医療機関や施設から「もしものとき」の治療方針についての同意を求められる局面がやってきます。人工呼吸器の装着、胃ろうの造設、心臓マッサージといった延命治療を行うかどうか、家族として署名・捺印の選択を迫られる瞬間です。

その時になって初めて、「そういえば、本人がどうしたかったのか、一度も直接聞いたことがなかった」と愕然とする家族は決して少なくありません。

「うちはエンディングノートを書いてもらっているから大丈夫」と安心している方もいるでしょう。しかし、いざというときにノートがすぐに見つからなかったり、あるいは「財産目録や口座情報は書かれているけれど、医療や介護の具体的な希望は空欄のままだった」ということは非常によくあります。

本人の意思がわからないまま、家族が代わりに「もしもの」の決断を代行することは、精神的に非常に重い負担となります。元気な今だからこそ、文字で「残す」ことの前に、本人の口から直接「聞く」ための対話が必要なのです。

エンディングノートは「記録の器」であって、「意思決定」そのものとは限らない

エンディングノートは、所有する財産や契約している各種サービス、銀行口座の所在など、事務的な「記録(事実)」を整理して家族に伝えるためにはとても役立つツールです。

しかし、医療や介護といった「これからの生き方」に直結するデリケートな意思決定を、ノートの記入だけに頼ることには大きな落とし穴があります。

厚生労働省が提唱する「人生会議(ACP)」の案内によると、人は誰でも、命に関わる大きな病気やケガに見舞われる可能性があり、実際に重篤な状態になると、約70%の方が今後の医療やケアなどを自分で決めたり、望みを人に伝えることができなくなるといわれています。

文字として一方的に「書き残す」だけでは、状況が刻一刻と変化する医療や介護の現場において、本人の本当の気持ちを汲み取ることが難しくなります。

「胃ろうは嫌だ」とノートに一言書いてあっても、それがどのような状況を指しているのか(一時的な回復が見込める場合も含めるのかなど)、家族や医師が判断に迷うケースは多いのです。

だからこそ、ノートに書き込む前段階として、家族と言葉を交わし、価値観を共有する「対話(話し合い)」のプロセスこそが何よりも重要になります。

データが示す、家族に伝わっていない「医療・介護」の意思と備えのギャップ

最新の調査データを見ていくと、家族間で「もしもの話」が十分に行われておらず、結果として家族が手探りで重要な選択を強いられている実態が浮き彫りになります。

介護や延命治療の対話が「後回し」にされる傾向

親と生前に話をしておきたいこと

親と生前に話をしておきたいこと

株式会社エス・エム・エスが発表した「親の終活に関する意識調査(2026年)」によると、親と生前に話をしておきたいこととして「葬儀(35.1%)」が最多となりました。

前回調査では「介護の希望」が最多でしたが、今回は1位と2位が逆転。さらに、「介護の希望」や「延命治療」についての話題を希望する割合は、前回比で3%以上減少しています。

近年、樹木葬や散骨など供養の多様化が進み「親の希望を確認したい」というニーズが高まっている一方で、日々の暮らしに直結するはずの「介護」や、最期を左右する「延命治療」についての対話が、葬儀というイベントの陰に隠れて後回しにされている状況が見えてきます。

施設探しの意思決定における「家族主導」の現実

施設探し「入所する本人の意志」はどこまで尊重されている?

施設探し「入所する本人の意志」はどこまで尊重されている?

本人の希望を事前に聞いていない場合、いざ介護施設を探す段階で、本人の意志がどこまで反映されるでしょうか。

株式会社鎌倉新書が実施した「第2回 介護施設探しに関する実態調査(2026年)」では、施設を探す際に誰の意志を最も尊重したかという問いに対し、半数以上の52.9%が「施設をご利用される方(利用者)」と回答しました。しかしその一方で、42.3%ものケースで「施設探しをされた方(相談者/家族)」の意向が最優先されているのが現実です。

在宅介護の限界や突然の病気・怪我、認知症の進行といった急を要する状況のなか、本人の希望がわからない、あるいは本人の状態がすでに悪化して意思を確かめることができず、家族主導で入居先を決定せざるを得ない家族の苦渋の決断がこの数字に表れています。

話し合いはしても「具体的指示」や「確実な共有」には至らない

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」でも、家族との間で漠然とした話し合いの経験を持つ人は一定数いるものの、それを具体的な事前指示書などの作成にまで落とし込めている割合は極めて低いというギャップが指摘されています。

単に「老後のことはよろしくね」という口約束だけでは、いざ医療機器や介護制度の選択を迫られたときに、具体的な意思決定の根拠としては機能しにくいのが実情です。

「敬老の日」の週末に始めたい、本音を引き出す話し方のコツ

将来の医療や介護の話は、日常生活の中ではなかなか切り出しにくいものです。エス・エム・エスの調査でも、終活について話し合わない理由として「切り出しにくい、話しにくい(41.0%)」が最も多い回答となっています。

そこでおすすめしたいのが、9月15日の「老人の日」から、9月21日の「敬老の日」に続く3連休までのタイミングです。「いつもありがとう」と感謝を伝えるこの日は、親のこれからを気遣う文脈で、ごく自然に将来の話を切り出せる絶好の機会です。

親御さんから本音を引き出すためのステップと、確認しておきたい3つの重要ポイントをまとめました。

話を切り出すきっかけの作り方

同調査によると、親と終活の話をするきっかけとなったことの第1位は「ニュースやメディアで終活のことを見聞きしたから(35.3%)」でした。

「敬老の日のテレビで、人生会議の特集をやっていたよ」「最近ネットでこういう記事を読んだんだけど、お父さん(お母さん)はどう思う?」といったように、メディアの話題をクッションにすることで、お互いに身構えることなく対話をスタートできます。

家族の口から聞いておきたい3つの重要ポイント

「医療」の希望:最期の瞬間にどうありたいか

もしも自分自身で意思表示ができなくなったとき、どのような医療やケアを望むか。人工呼吸器や胃ろうなどの延命治療に対する基本的な考え方を聞いておきます。

「最期まで苦痛を取り除いてほしい(緩和ケア重視)」「少しでも長く生きていたい」など、大まかな方向性を知るだけでも、家族の選択の迷いは減るでしょう。

厚生労働省のポータルサイトでも、もしもの時に備えた事前の話し合い(人生会議)を強く推奨しています。

「介護・療養場所」の希望:どこで過ごしたいか

体が不自由になったとき、自宅での療養にこだわりたいか、それとも早い段階から介護施設への入居を視野に入れたいか。

鎌倉新書の調査では、実際に入居した方の満足度は非常に高く、9割以上の利用者が「施設に入居したことでポジティブな変化や安心感を得た」と回答しています。

特に「入居後、快適に過ごせている(59.3%)」が最多で、「他者やスタッフとの交流がある(40.7%)」ことによる生活の質(QOL)向上を実感しています。本人が「施設に入ると寂しい思いをするのではないか」とネガティブなイメージを持っている場合は、こうしたリアルな声を紹介して安心感を持ってもらうことも大切でしょう。

「お金と保険」の所在:いざというときに動かせるか

意思決定そのものに加え、実務上極めて重要なのが「お金と保険」の確認です。

一般社団法人終活協議会が実施した「保険の見直しに関する実態調査(2026年)」によると、死後の費用(葬儀・手続き等)への備えが「まだ準備できていない/考えていない」と答えた人は63.5%にのぼり、自身の保険について家族に「まったく話していない」という人は48.9%と約半数を占めています。

さらに、保険情報の一覧表を「作成していない」または「必要性は感じつつも手をつけられていない」家庭が合計で約7割(46.2%+24.8%)に達しています。

これに「メモはあるが不完全(16.0%)」という層を加えると、実に8割以上の家庭で万全な整理ができていないのが実態です。

いざ介護が必要になったり、逝去されたりした際に、契約している保険の請求漏れが起きたり、死後手続きの費用が不足したりして、残された家族がパニックになることもあるでしょう。

暗証番号や詳細な金額まで無理に聞き出す必要はありません。

「どの保険会社に加入していて、保険証券や通帳がどこにあるのか」という保管場所だけでも確認しておきましょう。

繰り返し話し合う「人生会議(ACP)」の姿勢

厚生労働省が普及を推進する「人生会議(アドバンス・ケア・プランニング:ACP)」において重要なのは、一度の会話で全てを決定して終わらせないことです。

本人の気持ちや体調、ライフステージ、周囲の環境変化によって、望むことは当然変わっていきます。 「一度決めたから」と縛られる必要はありません。

「またお正月にでも話そうね」と、心と体の変化に合わせて何度も繰り返し対話を重ねていくこと自体が、家族の絆を深める「人生会議」の本質なのです。

まとめ:「エンディングノートに書く前に、まず一度聞いてみる」

終活というと、「完璧なエンディングノートを作り上げること」や「財産をきれいに仕分けること」などの“作業”をイメージしがちです。

しかし、介護や看取りの局面で本当に家族の心の支えになるのは、一冊の完成されたノートではなく、元気な親御さんの口から直接聞き、何度も交わした「何気ない対話の記憶」です。

看取りの同意書を前に、初めて気づく「本人の希望を知らない」という現実。

「延命なんていらないからね」「人工呼吸器とかはつけたくない」――我が家でも、家族の間で何度も交わしてきた軽い話題でした。

でも老衰だった母の主治医から実際に『看取り』を提案されたとき、その言葉と自分たちの会話は、すぐには結びつきませんでした。

胃ろうや人工呼吸器といった大掛かりな装置を「つけない」という話だと思い込んでいたのに、実際は「点滴などの医療行為を行わず、自然に任せる」という意味だと気づいたのは、その場になってからのことです。

もう言葉で気持ちを確かめられない相手の希望を、自分は本当に尊重できていたのか。母を見送った今でも、正直、自信はありません。

看取りのサインひとつで、何かとても大きなことを決めてしまったという重い気持ちは、いまも消えずに残っています。

参考資料

熊谷 良子LIMO&ホーム編集部記者/ 相続診断士 / ガーデンコーディネーター/証券外務員二種資格

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