この記事はここがポイント
- 老後の平屋は上下移動がない一方、基礎や屋根の広さによる建築費の割高傾向や防犯・浸水への配慮が必要な点。
- 住まいの広さは2人世帯の旧誘導居住面積水準約23坪を参考に20〜30坪を目安とした維持管理しやすい間取り。
- 要介護認定等を受けた住宅改修は上限20万円(原則9割給付)を支援する介護保険制度の着工前の事前申請。
子どもが独立し、夫婦2人になった家の階段が、少しずつ負担に感じられてきた…。老後の住まいとして平屋を考え始める方は少なくありません。
平屋は、上下移動がない分、老後と相性のよい選択肢の一つです。ただし「平屋にすれば安心」と言い切れるものではありません。
安全性や暮らしやすさは、段差、廊下の幅、浴室や脱衣所の温度差といった設計で大きく変わります。
そこで今回は、階段なし生活のメリットと注意点、20〜30坪という広さの目安、利用できる可能性のある制度、建て替え・住み替えの注意点を整理します。
制度や数値は、根拠となる資料の時点もあわせてお伝えしますので、最終的には公式情報と専門家へご確認ください。
住宅メーカーの営業現場で多くのお客様と対話してきました。その経験から感じる住まいの暮らしやすさは、建物の広さや設備の新しさだけで決まるものではない、ということです。
年齢を重ねるにつれて、以前は気にしなかった階段の上り下りや、ちょっとした段差、浴室の寒さなどが、日々の暮らしの負担になることがあります。そうした変化を考えると、生活空間がワンフロアにまとまった平屋は、老後の住まいとして魅力的な選択肢の一つです。階段を使わず、同一平面上で生活のすべてが完結するからです。
ただし、平屋にすれば、それだけで老後も安心して暮らせるわけではありません。大切なのは、現在の快適さだけでなく、将来、足腰が弱くなったり、介助が必要になったりする可能性を想定しておくことです。
例えば、寝室からトイレまでの移動を、スムーズな動線にして距離を短くする、廊下幅を広くして、室内建具も車椅子でも通れる幅にする、浴室や脱衣洗面所の寒さ対策の暖房設備を設置することなどが考えられます。さらに、快適な生活のための設備機器を将来設置するための準備は、専用電源の配線、手すり設置を想定した壁下地補強なども、将来の備えになります。
老後の住まいを考える際には、平屋という建物の形だけに注目するのではなく、これからの暮らしを具体的にイメージしながら、間取りや暮らしやすい設備機器を検討することが大切だと考えています。
老後に平屋が向くといわれる理由と、先に知りたい注意点
平屋は居住空間がすべて1階に収まる住宅です。階段がないため、上下移動の負担が少なく、洗濯や掃除、寝室とトイレの往復といった日々の動きも短くなりやすい点が特長です。
将来、歩行器や車いすを使う場面でも、設計次第で対応しやすくなります。
一方で、次の点は事前に押さえておきたいところです。
- 広めの土地が必要になりやすい:同じ延床面積でも、2階建てより建築面積が大きくなるため、土地の条件が合わないことがあります
- 建築費が割高になりやすい:基礎や屋根の面積が広くなるため、同じ延床面積の2階建てと比べて割高になる傾向があります(金額は条件で大きく変わるため、見積りで確認してください)
- 防犯・プライバシー・日当たり・浸水への配慮:すべての窓が1階にあるため侵入経路が多くなりやすく、周囲の建物によって日当たりやプライバシーも左右されます。また、浸水時に2階へ逃げる「垂直避難」ができないため、ハザードマップでの浸水想定の確認も欠かせません
- 広すぎる家は負担になりうる:掃除や冷暖房、修繕の手間が増えます
老後の平屋は何坪がいい?夫婦・一人暮らしの広さと間取りの考え方
まず広さの感覚です。1坪は約3.31㎡ですので、20坪はおよそ66㎡、30坪はおよそ99㎡にあたります。
国土交通省の住生活基本計画(全国計画)は、令和8年3月27日に新しい計画が閣議決定されました。
従来の計画(令和3年3月19日閣議決定)では、豊かな住生活の目安として『誘導居住面積水準』が定められ、一般型の2人以上の世帯は「25㎡×世帯人数+25㎡」(2人世帯で75㎡、約23坪)とされていました。
新しい計画ではこの世帯人数別の面積水準に代わり、『住宅性能水準』の中で、今後供給・流通を促す住宅の規模を「40㎡程度を上回る住宅」とする記載になっています。
従来の水準は参考の目安として捉え、必要な広さは暮らし方に合わせて検討しましょう。
夫婦・一人暮らしの広さと間取りの例
※考え方の一例で、法的な基準や推奨値ではありません。
3LDKを選ぶ場合は、使う頻度の低い部屋が掃除や冷暖房の負担にならないかも考えましょう。
間取りで確認したい3つのポイント
- 寝室、トイレ、浴室が近く、短い動線でつながっているか
- 廊下や出入口に、将来の歩行器・車いすを想定した余裕があるか(寸法は建築士や公的資料で確認)
- 玄関に、段差の解消や手すりの設置余地があるか
転倒・ヒートショックに備える設計の考え方
高齢期の住まいで気をつけたいのは、段差による転倒と、温度差による入浴中の事故です。
消費者庁によると、高齢者の入浴中の事故は、持病がない場合や前兆がない場合でも起こるおそれがあるとされています。
同庁の2018年11月の公表資料では、「家」「居住施設」の浴槽での溺死者数は平成23年以降、交通事故による死亡者数を上回っていると分析されており、東京消防庁管内の救急搬送データ(平成28年)では、高齢者の「おぼれる」事故の約7割が11月から3月に発生していました。数値は当時の分析であり、最新の状況は公表資料でご確認ください。
同庁は予防として、入浴前に脱衣所や浴室を暖める、湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にする、浴槽から急に立ち上がらない、入浴前に同居者へ一声かける、などを挙げています。
住宅側の工夫は、「平屋だから防げる」ではなく、暮らし方の注意を支える環境づくりと考えます。設計段階で検討したい項目は次のとおりです。
- 段差の解消(玄関、浴室の出入口、各室の境目)
- 手すりを後から付けられる壁の下地の確保
- 脱衣所・浴室・トイレの暖房や断熱、滑りにくい床材
仕様は事業者ごとに異なります。特定の商品ありきで決めず、必要な性能を整理したうえで、建築士に相談してください。
介護保険の住宅改修は「要介護認定等を受けた方」が対象、上限は20万円
将来、介護が必要になったときに知っておきたいのが、介護保険の『住宅改修』です。他の制度と混同しないよう、対象と手続きを整理します。
厚生労働省の資料によると、この制度は介護保険法に基づき、要介護認定等(要支援・要介護)を受けた方が自宅で自立した生活を続けられるよう、次の工事を保険給付の対象としています(根拠は介護保険法第45条〔要介護者〕・第57条〔要支援者〕)。
- 手すりの取付け
- 段差の解消
- 滑りの防止や移動の円滑化のための、床・通路面の材料の変更
- 引き戸等への扉の取替え
- 洋式便器等への便器の取替え
- 上記に付帯して必要となる改修
費用面は次のとおりです。
- 支給限度基準額:原則20万円(要支援・要介護の区分にかかわらず定額)。要介護度が3段階以上上がった場合や転居した場合は、再度20万円まで利用できるとされています
- 保険給付:原則9割(上限18万円)、所得に応じて8割(2割負担の方、上限16万円)・7割(3割負担の方、上限14万円)
- 手続き:原則として工事前に市町村へ申請し、工事後に領収書等を提出します。やむを得ない事情がある場合は、工事完成後の申請も可能とされています
同資料では、事前申請の際に「住宅改修が必要な理由書」を添えるとされています。
理由書は、ケアマネジャー(介護支援専門員)などに作成を依頼するのが一般的です(作成者の要件は自治体の案内でご確認ください)。
要介護認定等を受けていない段階では、この制度は使えません。新築や建て替えそのものも、対象として示されていません。
支給の方式や書類は、自治体によって異なります。たとえば文京区の公式サイトでは、工事後に費用を請求する「償還払い」と、給付券による「受領委任払い」の2つの申請書式が案内されています。お住まいの市区町村の介護保険窓口で必ずご確認ください。
自治体独自の助成は、介護保険とは別の制度
自治体によっては、介護保険の対象にならない方に向けた独自の助成を設けている場合があります。
世田谷区の公式サイトでは、65歳以上で要支援・要介護に該当しない方のうち、身体機能の低下により住宅改修が必要と認められる方を対象に、手すりの取付けなどの予防改修(最大20万円)や、浴槽の取替えなどの設備改修(所得制限あり)への助成が案内されていました(最新の内容は区にご確認ください)。
改修後の相談は助成対象にならないとされ、工事前の相談が前提です。
バリアフリー改修に関する税制や国・自治体の補助は時期によって変わります。着工前に最新の公式情報を確認し、自治体窓口や地域包括支援センターにも相談しましょう。
建て替え・住み替え・リフォームで気をつけたい5つのポイント
選択肢は、建て替え、住み替え、2階建てのままのリフォームです。費用や期間、仮住まいの要否が異なるため、次を確認しましょう。
- 土地の法規制:建築基準法52条は容積率、53条は建蔽率(建築面積の敷地面積に対する割合)の上限を定めています(e-Gov掲載の条文で確認)。用途地域や自治体の定めにより数値は異なるため、敷地ごとの確認が必要です。
- 既存不適格の可能性:現在の建物が現行の規制に合わない場合、建て替え時に同じ規模にできないことがあります。建築士や自治体窓口へご相談ください。
- 総額で考える:坪単価ではなく、土地・建物・解体・仮住まい・諸費用を合わせた総額で見ます。金額は条件で大きく変わるため、見積りで確認しましょう。
- 資金計画と年齢の条件:住宅ローンの年齢条件や返済期間は金融機関ごとに異なります。老後資金や年金収入とのバランスも含め、FP(ファイナンシャルプランナー)への相談をおすすめします。
- 売却・相続の見通し:将来の資産性も、宅地建物取引士や司法書士、税理士など専門家と事前に確認すると安心です。
家族で話し合うためのチェックリスト
- 今の家で困っていること(階段、段差、寒い浴室、掃除の負担)は何か
- 将来の介護の可能性と、病院・買い物・交通の便をどう見込むか
- 建て替え、リフォーム、住み替えのどれが現実的か
相談先は、ケアマネジャー、自治体の介護保険窓口・地域包括支援センター、建築士、FP、宅地建物取引士などです。
まとめ
老後の平屋は、階段のない暮らしによって日々の負担を軽くできる可能性のある選択肢です。一方で、土地や建築費の面、広さと維持管理の負担、浴室まわりの温度差対策など、設計と暮らし方の両面で考える点があります。
20〜30坪という広さは、従来の誘導居住面積水準なども参考にしつつ、暮らし方に合わせて決めるのが基本です。
介護保険の住宅改修は、要介護認定等を受けた方が対象で、工事前の申請が原則です。取扱いは自治体で異なるため、窓口への確認が欠かせません。
契約や手続きを進める際は、専門家にも相談しながら進めていただければ幸いです。
ご利用にあたっての注意
本記事は2026年時点の情報に基づく一般的な解説であり、特定の商品・サービス・業者の購入や契約を推奨・勧誘するものではありません。記載の制度・数値は目安であり、地域・条件・時期により異なります。施工・契約・税務等の最終判断は、公式情報の確認および専門家(ケアマネジャー、建築士、FP、宅地建物取引士、司法書士、税理士、各自治体の窓口 等)への相談のうえ、ご自身の責任で行ってください。健康や介護に関する記述は診断や効果を断定するものではありません。
参考情報
株式会社モニクルリサーチが運営する経済メディア『LIMO』の住まい・暮らし領域『LIMO&ホーム』編集部。元金融機関出身者や元記者、専門資格保有者が住宅・お金・ガーデニングなどを解説する。
大手住宅メーカーで38年間勤務。350棟超の住まいづくりに立ち会い、国内の住宅営業・支店運営から、海外法人の経営、都市開発まで経験。住文化や住宅事情を知る実務家として、住まいを暮らしの視点から解説。
老後の住まいづくりで、もう一つ考えておきたいのが、広さと維持管理のバランスです。
注文住宅の打ち合わせでは、収納や部屋数をなるべく広くして欲しい、という要望が多くあります。しかし、子どもの独立後に夫婦2人で暮らすのであれば、使わない部屋が増えることで、掃除や冷暖房、将来の修繕などの負担が大きくなります。
20〜30坪という広さを一つの目安にしながら、夫婦それぞれの居場所や収納、来客への対応など、必要な機能を整理して間取りを考えることが重要です。単に面積を小さくするのではなく、必要な場所に必要な広さを配分することが、暮らしやすさにつながります。
また、平屋は同じ延床面積の2階建てと比べて基礎や屋根の面積が大きくなりやすく、建築費が割高になる傾向があります。土地の広さや形状、日当たり、防犯、浸水などの災害リスクなども含めて、総合的に検討する必要があります。
私が住まいづくりで大切だと考えているのは、将来の選択肢を広げられる準備をしておくということです。自分らしい将来の暮らし方をシミュレーションしてみて、コンセントなど予備的な電源数や下地補強などを、事前に準備しておくとよいと思います。家族とも十分に話し合い、長く安心して暮らせる住まいを考えていただきたいと思います。